【 高知県レッドデータブックのアカメのカテゴリーについて検証するための資料】06.7.20

 「アカメの国」のBBSでアカメの位置づけについて論議が進んでいます。下記は高知県レッドデータブックから引用しました。ただし、以下では、原文の○数字を(1)のように、また、面積の単位を記号ではなく、平方キロメートルとしています。

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・・・本書では全国的な整合性を保つためにも、用語およびその用語が示すカテゴリーは1994年のIUCNのRDBカテゴリー(環境庁、1997)に準拠することとした。なお、動物の場合種の状況判断で「定量的要件」をみたすことはきわめて困難であり、また分類群によってもさまざまであるが、できる限り定量的要件をみたすよう努め、不可能な場合は「定性的要件」を用いた。以下に、環境庁(1997)のレッドデータブックカテゴリーを示す。

 レッドデータブックカテゴリー(環境庁、1997)

 1994年12月、IUCNは新たなRed List Categolies(長野注:正しくはCategories)を採択した。カテゴリー改訂作業は、1989年からIUCNの種の保存委員会(SSC)を中心に進められた。

新カテゴリーの特徴は、

(1)今までの定性的な要件とは異なり、絶滅確率等の数値基準による客観的な評価基準を採用していること

(2)絶滅のおそれのある種をThreatenedでくくり、その中にCritically Endangered、Endangered、Vulnerableを設定していること

などである(1996年10月に採択されたIUCN Red List of Threatened Animalsは、この新カテゴリーに基づく最初のレッドリストである)。

 今般、植物版レッドデータブックの策定および動物版レッドデータブックの改訂に当たり、この新カテゴリーの扱いに関して検討を行った。数値基準による客観的評価は今までの定性的な評価よりも好ましいこと、この新カテゴリーが今後世界的に用いられていくと考えられることから、基本的にこのカテゴリーに従うべきとされたが、数値的に評価が可能となるようなデータが得られない種も多いことから、今までの「定性的要件」と、新たに示された「定量的要件」(数値基準)を併用し、数値基準に基づいて評価することが可能な種については、「定量的要件」を適用することとした。

 なお、定性的要件と定量的要件は、必ずしも厳密な対応関係にあるわけではないが、現時点では併用が最善との結論に至ったものである。

 IUCN新カテゴリーに準拠して策定したカテゴリーは以下のとおりである。

 (注)絶滅危惧I類のうち、数値基準によりさらに評価が可能な種については絶滅危惧IA類および絶滅危惧IB類として区分した。(p. 24)

 ■カテゴリー定義(p. 25〜28)

区分及び基本概念

定性的要件

定量的要件

絶滅

Extinct (EX)

本県ではすでに絶滅したと考えられる種(注1)

過去に本県に生息したことが確認されており、飼育・栽培下を含め、本県ではすでに絶滅したと考えられる種

                          

野生絶滅

Extinct in the Wild (EW)

飼育・栽培下でのみ存続している種

 

 

 

 

 

 

過去に本県に生息したことが確認されており、飼育・栽培下では存続しているが、本県において野生ではすでに絶滅したと考えられる種

【確実な情報があるもの】

(1)信頼できる調査や記録により、すでに野生で絶滅したことが確認されている。

(2)信頼できる複数の調査によっても、生息が確認できなかったもの。

【情報量が少ないもの】

(3)過去50年間前後の間に、信頼できる生息の情報が得られていない。

                          

定性的要件

定量的要件

 

THREATENED 

絶滅危惧I類

(CR+EN)

絶滅の危機に瀕している種

現在の状態をもたらした圧迫要因が引き続き作用する場合、野生での存続が困難なもの。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

次のいずれかに該当する種

【確実な情報があるもの】

(1)既知のすべての個体群で、危機的水準にまで減少している。

(2)既知のすべての生息地で、生息条件が著しく悪化している。

(3)既知の全ての個体群がその再生産能力を上回る捕獲・採集圧にさらされている。

(4)ほとんどの分布域に交雑のおそれがある別種が侵入している。

【情報量が少ないもの】

(5)それほど遠くない過去(30年〜50年)の生息記録以後確認情報がなく、その後信頼すべき調査が行われてないため、絶滅したかどうかの判断が困難なもの。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

絶滅危惧IA類

Critically (CR)

ごく近い将来における野生での絶滅の危険性が極めて高いもの。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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絶滅危惧IB類

Endangered

(EN)

IA類ほどではないが、近い将来における野生での絶滅の危険性が高いもの。

 

 

 

 

 

 

絶滅危惧IA類

(CR)

A. 次のいずれかの形で個体群の減少がみられる場合。

1. 最近10年間もしくは3世代のどちらか長い期間(注2)を通じて、80%以上の減少があったと推定される。

2. 今後10年間もしくは3世代のどちらか長い期間を通じて、80%以上の減少があると予測される。

B. 出現範囲が100平方キロメートル未満もしくは生息地面積が10平方キロメートル未満であると推定されるほか、次のうち2つ以上の兆候が見られる場合。

 1. 生息地が過度に分断されているか、ただ1カ所の地点に限定されている。

 2. 出現範囲、生息地面積、成熟個体数等に継続的な減少が予測される。

 3. 出現範囲、生息地面積、成熟個体数等に極度の減少が見られる。

c. 個体群の成熟個体数が250未満であると推定され、さらに次のいずれかの条件が加わる場合。

 1. 3年間もしくは1世代のどちらか長い期間に25%以上の継続的な減少が推定される。

 2. 成熟個体数の継続的な減少が観察、もしくは推定・予測され、かつ個体群が構造的に過度の分断を受けるか全ての個体が1つの亜個体群に含まれる状況にある。

D. 成熟個体数が50未満と推定される個体群である場合。

E. 数量解析により、10年間、もしくは3世代のどちらかが長い期間における絶滅の可能性が50%以上と予測される場合。

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絶滅危惧IB類

(EN)

A.次のいずれかの形で個体群の減少が見られる場合。

 1. 最近10年間もしくは3世代のどちらか長い期間を通じて、50%以上の減少があったと推定される。

 2. 今後10年間もしくは3世代のどちらか長い期間を通じて、50%以上の減少があると予測される。

B. 出現範囲が5,000平方キロメートル未満もしくは生息地面積が500平方キロメートル未満であると推定されるほか、次のうち2つ以上の兆候が見られる場合。

 1 .生息地が過度に分断されているか、5以下の地点に限定されている。

 2. 出現範囲、生息地面積、成熟個体数等に継続的な減少が予測される。

 3. 出現範囲、生息地面積、成熟個体数等に極度の減少が見られる。

C.個体群の成熟個体数が2,500未満であると推定され、さらに次のいずれかの条件が加わる場合。

 1. 5年もしくは2世代のどちらか長い期間に20%以上の継続的な減少が推定される。

 2. 成熟個体数の継続的な減少が観察、もしくは推定・予測され、かつ個体群が構造的に過度の分断を受けるか全ての個体が1つの亜個体群に含まれる状況にある。

D. 成熟個体数が250未満であると推定される個体群である場合。

E. 数量解析により、20年間、もしくは5世代のどちらか長い期間における絶滅の可能性が20%以上と予測される場合。

 

 

 

(注1)種:動物では種及び亜種、植物では種、亜種及び変種を示す。

(注2)最近10年間もしくは3世代:1世代が短く3世代に要する時間が10年未満のものは年数を、1世代が長く3世代に要する時間が10年を越えるものは世代数を採用する。

区分及び基本概念

定性的要件

定量的要件

絶滅危惧

THREATENED

絶滅危惧II類

Vulnerable (VU)

絶滅の危険が増大している種

現在の状態をもたらした圧迫要因が引き続き作用する場合、近い将来「絶滅危惧I類」のランクに移行することが確実と考えられるもの。

次のいずれかに該当する種

【確実な情報があるもの】

(1)大部分の個体群で個体数が大幅に減少している。

(2)大部分の生息地で生息条件が明らかに悪化しつつある。

(3)大部分の個体群がその再生産能力を上回る捕獲・採取圧にさらされている。

(4)分布域の相当部分に交雑可能な別種が侵入している。

A. 次のいずれかの形で個体群の減少が見られる場合。

 1. 最近10年間もしくは3世代のどちらか長い期間を通じて、20%以上の減少があったと推定される。

 2. 今後10年間もしくは3世代のどちらか長い期間を通じて20%以上の減少があると予測される。

B. 出現範囲が20,000平方キロメートル未満もしくは生息地面積が2,000平方キロメートル未満であると推定され、また次のうち2つ以上の兆候が見られる場合。

 1. 生息地が過度に分断されているか、10以下の地点に限定されている。

 2. 出現範囲、生息地面積、成熟個体数等について、継続的な減少が予測される。

 3. 出現範囲、生息地面積、成熟個体数等に極度の減少が見られる。

C. 個体群の成熟個体数が10,000未満であると推定され、さらに次のいずれかの条件が加わる場合。

 1. 10年間もしくは3世代のどちらか長い期間内に10%以上の継続的な減少が推定される。

 2. 成熟個体数の継続的な減少が観察、もしくは推定・予測され、かつ個体群が構造的に過度の分断を受けるか全ての個体が1つの亜個体群に含まれる状況にある。

D. 個体群が極めて小さく、成熟個体数が1,000未満と推定されるか、生息地面積あるいは分布地点が極めて限定されている場合。

E. 数量解析により、100年間における絶滅の可能性が10%以上と予測される場合。

区分及び基本概念

定性的要件

定量的要件

準絶滅危惧

Near Threatened (NT)

存続基盤が脆弱な種

現時点での絶滅危険度は小さいが、生息条件の変化によっては「絶滅危惧」として上位ランクに移行する要素を有するもの。

 

次に該当する種

 生息状況の推移から見て、種の存続への圧迫が強まっていると判断されるも の。具体的には、分布域の一部において、次のいずれかの傾向が顕著であり、今後さらに進行するおそれがあるもの。

 a 個体数が減少している。

 b 生息条件が悪化している。

 c 過度の捕獲・採取圧による圧迫を受けている。

 d 交雑可能な別種が侵入している。

 

区分及び基本概念

定性的要件

定量的要件

情報不足

Data Deficient (DD)

評価するだけの情報が不足している種

環境条件の変化によって、容易に絶滅危惧のカテゴリーに移行し得る属性(具体的には、次のいずれかの要素)を有しているが、生息状況をはじめとして、ランクを判定するには足る情報が得られていない種。

a)どの生息地においても生息密度が低く希少である。

b)生息地が局限されている。

c)生物地理上、孤立した分布特性を有する(分布域がごく限られた固有種等)。

d)生活史の一部または全部で特殊な環境条件を必要としている。

●付属資料 (p. 28)

区分及び基本概念

定性的要件

定量的要件

絶滅のおそれがある地域個体群

Threatened Local Population (LP)

地域的に孤立している個体群で、絶滅のおそれが高いもの。

次のいずれかに該当する地域個体群

(1)生息状況、学術的価値等の観点から、レッドデータブック掲載種に準じて扱うべきと判断される種の地域個体群で、生息域が孤立しており、地域レベルで見た場合絶滅に瀕しているかその危険が増大していると判断されるもの。

(2)地方型としての特徴を有し、生物地理学的観点から見て重要と判断される地域個体群で、絶滅に瀕しているか、その危険が増大していると判断されるもの。

 


以上がカテゴリーについての資料です。

以下は個別種への対策の中からアカメについて書かれたものです。

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 ■個別種への対策(p. 41〜42)

 ここで取り上げる種は、対策の実施に緊急度が高いもの、個別の種に対する対策の実施が可能とおもわれるものについて、レッドリスト記載種と重複するものもあるが、あえて取り上げておく。

 ただし、対策が必要な種が、ここで取り上げた種に限られるわけではない。

 汽水・淡水魚

 アカメ

 生息を脅かす原因

 汽水域の埋め立てや水質汚濁などの環境の劣化、コアマモ場の減少および漁獲圧の増加が個体数の激減を招いている。

 現在とられている保護策

 なし。

 今後必要な保護対策

 禁漁区など保護水域や禁漁期の設定と罰則の制定による保護。また、種の天然記念物指定も考えられる。

 その理由

 アカメの分布域は、和歌山県から宮崎県とされており、分布の中心は高知県とみられる。さらに、その分布の中心地はかっては浦戸湾であったが、現在は生息数が数十分の1から百分の1の間である。県下全域でも四万十川でもほぼ同様の傾向にあるとみられ、とくに現在の分布の中心地である四万十川において、幼稚魚の採捕を禁じるなど何らかの保護対策が必要である。


高知県RDB p.176〜177 レッドデータ種の解説(06.8.1)

アカメ(魚類) Latesu Japonicus アカメ科 高知県評価:IA類(CR) 環境庁評価:準絶滅危惧種 (NT)

【選定理由】日本の固有種であるアカメは,その全国的分布から見ても中心地であった浦戸湾と仁淀川において,1950年以前と以後を比較すると数十分の1〜1/100の激減と判断される.減少の最大の要因は水質の汚染と,幼稚魚の保育場となるアマモ場の埋め立てなどによる消失と汚濁である.また,現在最も生息密度が高い四万十川流域での減少は,上記2つの要因に加えて鑑賞魚としての売買を目的とした幼稚魚の乱獲が原因である.

【形態】全長2mに達する.体形はスズキ型で,体高がやや高く,吻は尖る.頭の背縁はやや凹み,眼がルビー色に輝くのが著しい特徴.口は大きく,上顎の後端は眼の後縁をはるかに越える.鰓蓋の骨の後縁がのこぎり歯状になり,角の部分に1本と下縁に3本の強いとげがある.第1背鰭は7〜8棘,第2背鰭は1棘11軟条で,両背鰭は基部で互いに接する.胸鰭は15〜16軟条で,17〜18をもつ近縁の東南アジア産のL. calcariferから区別できる.第2背鰭,臀鰭,尾鰭の後縁はまるい.全長30〜40cm以下の若魚や幼魚は暗褐色の地に不規則な暗色横帯をもつ.成魚は暗灰色で,老成魚の背側は褐色.眼の色や堅い鱗にちなんで,あかめ(高知市),みのうお(春野町・中村市),めひかり(徳島県)などと呼ばれ,また宮崎県ではまるかと呼ぶ.なお,腹鰭腋部に鱗状突起があり,側線鱗が尾鰭後端に達するのがアカメ科の特徴であり,独特の科とされた理由である.

【生態と分布】本種の産卵場は現在不明であるが,海域と推定されている.産卵期は6月下旬〜8月上旬で,7月下旬に全長4〜5mm,8月に5.3〜9.7mmの稚魚が四万十川汽水域のアマモ場に出現する.翌年3〜4月には全長15cm前後に成長する.幼稚魚は黒黄まだらの体をアマモに沿って倒立する擬態をとり,前方へと滑走して餌を補食する.かつての浦戸湾では10〜11月に成魚が多く漁獲されているが,11月下旬〜冬季にかけては沿岸岩礁域へと移動するようである.純淡水域へ侵入することは滅多にない.

 アカメの分布域は静岡県浜名湖から鹿児島県志布志湾までとされている.そのうち静岡県・和歌山県・鹿児島県は唯一度の記録であるため,常時の生息地は徳島県から宮崎県であるとみてよい.したがって,高知県は分布の中心地である.1934(昭和9)年には,浦戸湾産魚類の生息密度,多・普通・少・希の段階中,多と表記されている.

【現況と保護対策】分布の中心地であった浦戸湾の生息地が破壊された今,現在の分布中心地である四万十川本流と支流竹島川ならびに仁淀川の水質とアマモ場を保全し,幼稚魚の乱獲を厳重に規制すべきである.

【引用文献】

8) 藤田真二,1994.四万十川河口域におけるスズキ属,ヘダイ亜科仔稚魚の生態学的研究.九州大学博士論文(農学部)141pp. 

10) 岩槻幸雄・田代一洋・浜崎稔洋,1993.アカメの分布と出現(英文).魚類学雑誌,40:327-332.

11) 蒲原稔治,1934.浦戸湾内における魚類の移動状態.植物及動物,2:359-370.

12) 蒲原稔治,1950.土佐及び紀州の魚類.高知県文教協会,高知,284pp.

13  蒲原稔治,1958.浦戸湾内の魚類.高知大学学術研究報告,7(13):1-11.

16) 環境庁(編),1993.動植物分布調査報告書(淡水魚類),第4回環境保全基礎調査,環境庁自然保護局,東京,408pp.

17) 川那部浩哉・水野信彦(編),1989.日本の淡水魚.山と渓谷社,東京,719pp.

20) 木下 泉,1986.アカメの初期生活史.高知県自然保護課(編),土佐の自然,42:8-10.高知県,高知.

21) 木下 泉・岩槻幸雄,1996.3.アカメ Lates japonicus Katayama et Taki,1984.日本水産自然保護協会(編),日本の希少な野生水棲生物に関する基礎資料

   (III),pp.103-106,158-159.日本水産資源保護協会,東京.

24) 長田芳和・細谷和海(編),1997.日本の希少淡水魚の現状と系統保存-よみがえれ日本淡水魚-,緑書房,東京,V+379pp.

29) 落合 明・楳田 晋・1973.四万十川の生物相に関する総合的研究(高知県中村市委託報告書).中村市,ii+44pp.

35) 落合 明・古屋八重子・大野正夫・谷口順彦,1984.高知県の淡水生物.高知県内水面漁業協同組合連合会,高知,156pp.

37) 岡村 収,1990.四万十川の動物-魚類.伊藤猛夫(編),四万十川<しぜん・いきもの>,pp.221-306.高知市民図書館,高知.

38) 岡村 収・尼岡邦夫(編),1997.日本の海水魚.山と渓谷社,東京,783pp.

41) 岡村 収・為家節弥,1977.四万十川の魚類.岡村 収(編),四万十川水系の生物と環境に関する総合調査,pp.159-232.高知県,高知.

47) リバーフロント整備センター(編),1998.平成7年度河川水辺の国勢調査年鑑(魚介類,底生動物調査).山海堂,東京,CD-ROM.