ここは南国、土佐の高知。
山村で暮らす穏やかな毎日が段々と怪しくなって久しくなりました。子どもの頃は段々畑の山のてっぺんのまで作っていたサツマイモ。それがわが家の裏の畑でも栽培できなくなったのです。
イノシシです。
田んぼは棚田、御先祖が営々と谷あいをひらき、石垣をつき文字通り血と汗で作り上げてきたその田圃がいまや荒れ果てて、ススキや雑木の生い茂る有様。子どもの時代、タニシをひろいドジョウを捕まえて遊んだ美しい棚田はもはやありません。現在、集落ではわずかに2戸の農家(我が家を含め)が細々と稲作を営んでいます。集落戸数10戸。全戸がおこなっていた稲作が放棄されたのです。『苦労してイノシシの餌を作るようなことはいやじゃ!』。
収穫が近づくとそわそわと落ち着かなくなります。
イノシシです。
侵入を何とか防ごうと田んぼの周りに杭を打ってそれにトタンを打ち付け、高さが足りないのでトタンの上に遮光ネットや専用の網をはったりしました。ラジオを鳴らしたり犬に夜勤を頼んだりしました。軽トラのエンジンを一晩中かけてライトを点けウインカーをちかちかさせてラジオのボリュームをいっぱいに上げたり、夜中に起きて花火を鳴らして廻ったりしました。それでも侵入して稲穂を食いちらし、稲を踏み込み荒らし回るのが
イノシシです。
タケノコは12月はじめから土の底で育っているものを掘り返してしまいます。栗は落ちるとイノシシのもの、木になっているうちにたたき落として収穫しないといけません。タケノコや栗だっけなら我慢もしてやりますが、主な農作物は生活の基、一年間がかりで丹誠込めて作らないとよい作物はできません。肥料をまき、苗を起こし、耕し、植え付け、草取り、追肥、汗と土にまみれてやっと収穫というその直前にめちゃめちゃぐちゃぐちゃにされる気持ちがおわかりでしょうか?
まあ、サラリーマンでしたら、毎月毎月、汗水垂らして働いて得た給料を貰っての帰り道、必ず同じ強盗にやられて為す術もなく、来月の給料日はどの道を通って帰ろうかと思案に暮れる日々というのを想像して貰えばよろしいかと思います。
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写真左端:色づき始めた早稲の田圃にイノシシの襲撃がはじまった。写真中:イノシシ防護柵。たんぼをぐるぐるとトタン板でとりまく。写真右:我が家の早稲、コシヒカリの収穫。バインダーで刈り取って天日干し。8月の炎天下での作業はきびしい。 |
Yahoo!で検索してみますと、イノシシ被害 で検索した結果 約131,000件(06.6.13現在)がヒットします。
近年は鳥害が減り、獣害が増える傾向にある。80年代に5万ヘクタール台だった獣害は、95年度には最高の14万5,000ヘクタールにまで広がり、ここ数年は6万〜8万ヘクタールで推移している。かつて大部分を占めていたネズミによる被害は激減し、00年度には6割がシカ、2割がイノシシによるものとなっている。
イノシシによる農業への被害は特に西日本に多く、 佐賀県ではイノシシの被害金額が県内だけでも3億円(2004年)といわれているし、島根県では二〇〇四年の有害鳥獣による農作物被害額八千百万円のうち、イノシシによる被害は水稲を中心に四分の三を占める六千百万円に上っています。
00年度の全国における鳥獣被害の面積は18万3,000ヘクタール。カラス、スズメなど鳥によるものが10万1,000ヘクタール、シカ、イノシシなど獣によるものが8万2,000ヘクタールとなっている。
≪駆除とは≫鳥獣保護法に基づいて行われ、正式には有害鳥獣駆 除と呼ばれる。猟期(11月15日〜翌年2月15日)の狩猟と区別さ れ、農作物に被害を与える野生動物を、都道府県知事や市町村長の 許可を得て捕獲できる。地方分権が進む中で、現在は駆除の許可権 限が、都道府県から市町村に移っている。生息調査を踏まえ、野生 動物の数をコントロールする特定鳥獣保護管理計画を策定する都道 府県もある。農業被害が深刻なイノシシを減らそう と、高知県は昨年度から、同計画に沿って猟期を 11月1日〜2月末日に延ばした。全国的にも猟期の延長が増えています。
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2000年度 |
順位 |
県 |
頭数 |
県 |
頭数 |
1 |
兵庫 |
1594 |
島根 |
4833 |
2 |
山口 |
481 |
広島 |
4649 |
3 |
三重 |
452 |
岡山 |
4358 |
4 |
岐阜 |
380 |
山口 |
3823 |
5 |
京都 |
370 |
福岡 |
3012 |
6 |
鹿児島 |
271 |
大分 |
2854 |
7 |
宮崎 |
266 |
佐賀 |
2788 |
8 |
広島 |
207 |
熊本 |
2208 |
9 |
大阪 |
162 |
愛媛 |
1911 |
10 |
和歌山 |
153 |
鹿児島 |
1841 |
【イノシシ特区】
Yahoo!のイノシシ特区 で検索した結果 約2,820件 もの数がでてきます。
イノシシ特区とはこういうものです。島根県知事のコメントで紹介しましょう。
4つ目が構造改革特区の申請である。
今、本県においては中山間地域におけるイノシシや猿などによる農林作物の被害の防止ということは重要な課題であるが、これらの捕獲には狩猟免許が必要である。この狩猟免許取得者の状況を見ると、だんだん高齢化してきており、受験者数が減少傾向にある。捕獲対策の停滞が懸念される状況であり、狩猟免許取得を促進していくことが今、喫緊の課題となっている。この狩猟免許には銃器に関する免許のほかに、網・わな猟の免許があるが、このうち網・わな猟の免許の取得に当っては、試験内容が被害対策として必要な知識以上のものを求められるということから、免許取得促進の障害となっている。これまで農業者等からも免許試験の簡素化の要望を聞いてきたところであり、こうしたことから、このたび鳥獣保護法の特例措置を国に構造改革特区として申請をすることにした。具体的には、イノシシなどをわなで捕獲する免許を取得したいということであれば、法に定められている網や鳥類に関する知識、技能を免除するということにして免許取得を容易にしたいと思っている。狩猟免許取得者の確保、増加を図り、イノシシなどの有害鳥獣捕獲対策の強化につなげたいと考えている。今回の構造改革特区申請は、島根県として申請するものでは第1号となるが、この申請が認定されると、今年度の免許試験から実施をして、農林作物被害の未然防止につなげるとともに、今後一層有害鳥獣被害対策の普及啓発に努め、中山間地域における農林作物被害の減少を図っていきたいと考えている」。
イノシシ猟は「くくりわな」・「はこわな」といった、わな猟でも行いますが今までの試験では実際に必要のない「網」の免許も同時に必要でした。しかし2005年の狩猟免許試験から「わな」の試験だけで狩猟免許が取れるようになりました。
自分の土地・作物は自分で守れるようにしようということです。
イノシシ被害とその対策について、膨大な資料と追跡調査でせまったルポルタージュ記事があります。その名も「猪変(いへん)http://www.chugoku-np.co.jp/kikaku/ihen/index.html」中国新聞編集局社会・経済グループ イノシシ取材班が取り組んだものです。2002.12.10から2004.5.17にわたって「中国新聞」に掲載されました。
【高知県の取り組み】06.3.14
近畿中国四国農業研究センター 仲谷淳・鳥獣害研究室長談(02.12)
「イノシシが日本各地で勢力を広げ、農業被害が問題になってい る。年間の捕獲数は、駆除と狩猟を合わせて十五万頭近くまで増え た。しかし、被害は減っていない。
野生動物による二〇〇〇年度の農業被害額は全国で百三十三億 円。そのうち、イノシシが39%を占めて最も多い。中国、四国地域 でのイノシシによる被害額も、二十三億円に上る。罠(わな)など での捕獲対策とともに、生態や習性を考えた、科学的な食害対策が 望まれている」。
高知県はイノシシ通算捕獲数(駆除+狩猟)の全国ランキング(1960〜2000年度)では12位、84028頭のイノシシを捕獲しております。お隣の愛媛県は通算捕獲数(駆除+狩猟)54979頭であり17位、しかし、2000年度の駆除数ランキングが全国10位1911頭、また、香川県がイノシシ特区の取り組みを強めるなどその被害対策は進んでいます。しかし、森林面積率日本一であり、の高知県での取り組みは駆除ランキングでは10位以内にはいっておりません。被害の多い、中国・四国地域のなかでもそれほど進んでいるとは言い難いようです。
つづく