アカメは高知県絶滅危惧種に該当するのか?


アカメは高知県絶滅危惧種に該当しない!

その(1)----絶滅危惧IA類(CR)か?

 長野と町田(注1)は,アカメが高知県絶滅危惧IA類に指定されていることに疑問を感じ,検証を試みました。私たちの検証に関し,みなさんからご意見を賜りたいと思います。私たちはそれらを参考に,検証を繰り返すつもりです.もちろん,私たちの検証の最終的な結果について,いずれ県の担当部局からご意見をいただく予定にしております.なお,町田は高知県RDBの作成に関与しましたが,哺乳類分科会に所属しており,汽水・淡水魚類の指定には関与していません.

わたしたちの検証の結果を発表(06.7.29)しました.これによりわたしたちはアカメは高知県レッドデータブックでのカテゴリーIA類には該当しないという結果を得ました.

 続けて検討の結果,環境省が発表したアカメのカテゴリーである準絶滅危惧種よりも一段下のランクである情報不足種に該当するという結論を得(07.2.10)ました.

 2006年8月2日に準絶滅危惧に該当する種だと発表していましたが,長野はうっかり一段下の「情報不足」の要件で検討するという過ちを犯しておりました.高知県レッドデータブック アカメのカテゴリーの検証にその経過と再度の検討と,その結果について掲載してあります.

 

(注1)高知大学理学部自然環境科学科教授 町田吉彦


その(1)----絶滅危惧IA類(CR)か?(2006.7.29)

 長野と町田(注1)は,アカメが高知県絶滅危惧IA類に指定されていることに疑問を感じ,検証を試みつつありますが,私たちの検証に関し,みなさんからご意見を賜りたいと思います。私たちはそれらを参考に,検証を繰り返すつもりです.もちろん,私たちの検証の最終的な結果について,いずれ県の担当部局からご意見をいただく予定にしております.なお,町田は高知県RDBの作成に関与しましたが,哺乳類分科会に所属しており,汽水・淡水魚類の指定には関与していません.

(注1)高知大学理学部自然環境科学科教授 町田吉彦

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 このHPに関心を寄せて下さっている方々のすべてが高知県RDBをお持ちとは考えられないので,最初に高知県RDBのp. 176にあるアカメをIA類に選定した理由を掲げます.カテゴリーの定義はHP「アカメの国」【 高知県レッドデータブックのアカメのカテゴリーについて検証するための資料】

(http://www1.ocn.ne.jp/~akame/red_data_book.html)に掲載してあります.以下の部分で,私たちの検証結果を*(赤文字)で示します.

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【選定理由】日本の固有種であるアカメは,その全国的分布からみても中心地であった浦戸湾と仁淀川において,1950年以前と以後を比較すると数十分の1〜1/100の激減と判断される.減少の最大の要因は水質の汚染と,幼稚魚の保育場となるアマモ場の埋め立てなどによる.また,現在最も生息密度が高い四万十川流域での減少は,上記2つの要因に加えて観賞魚としての売買を目的とした幼稚魚の乱獲が原因である.

(県RDBではこれに続いて【形態】【生態と分布】【現況と保護対策】が書かれていますが,指定選定理由とは直接関係がないので,ここでは省略します.)

◎絶滅危惧I類(CN+EN)の定性的要件について

【確実な情報があるもの】に該当するので,以下の (1) 〜 (4) を検討することになる.

(1) 既知のすべての個体群で,危機的水準にまで減少している.

(2) 既知のすべての生息地で,生息条件が著しく悪化している.

(3) 既知のすべての個体群がその再生産能力を上回る捕獲・採取圧にさらされている.

(4) ほとんどの分布域に交雑のおそれがある別種が侵入している.

*(1) に関しては,高知県沿岸でアカメが生息地ごとに独立した個体群ないし亜個体群を形成しているとは考えられません.また,アカメの個体群がどれほどの個体数を下回ったら危機的水準かは誰にも分かりません.高知県RDBではこの要件に触れておらず,また,個体群の存在に言及していないので,この要件でIAに指定したとは考えられません.

*(2) に関して,県RDBはすべての生息地で生息条件が著しく悪化していることに触れていません.したがって,この要件は考慮していないと判断されます.ただし,県RDBは減少の原因について触れていますが,数十分の1〜1/100という具体的な数値を示しており,この数値に基づいて指定を行ったと考えるのが妥当です.すなわち,定量的要件で検討したと考えられます.

*(3) に関して,県RDBは釣りを含む捕獲数に触れておらず,四万十川流域での幼稚魚の乱獲に言及しているのみです.他の地域での幼稚魚の乱獲に関する記述もないことから,すべての産地でこの要件を考慮したとは考えられません.

*(4) に関して,県RDBでは記述がありません.したがって,この要件を考慮したとは考えられません.

*以上のことから,定量的要件の検討が重要と判断されます.

 県RDBのp. 42にあるアカメにおける【個別種の対応】では,『アカメの分布域は,和歌山県から宮崎県とされており,分布の中心は高知県とみられる.さらに,その分布の中心地はかつては浦戸湾であったが,現在は数十分の1から百分の1の間である.県下全域でも四万十川でもほぼ同様の傾向にあるとみられ,とくに現在の分布中心地である四万十川において,・・・・』と書かれています.これと【選定理由】を比較すると,以下の2つの疑問が生じます.

 *(a)【選定理由】では浦戸湾と仁淀川をかつての分布の中心地としていながら,【個別種の対応】では仁淀川に触れていないのは何故か?

 *(b)【個別種の対応】で,浦戸湾と四万十川がほぼ同一の減少率とみられるとしながら,現在の分布の中心地を四万十川としているのは矛盾する.また,【選定理由】の部分で, 現在最も密度が高いのは四万十川流域と断定している.ほぼ同一の減少率を仮定しているのなら,現在も分布の中心は浦戸湾と仁淀川とするのが妥当でないのか? また,四万十川流域の推定密度ないし個体数はいくらなのか?

 *高知県RDB p.177【生態と分布】では「・・・アカメの分布域は静岡県浜名湖から鹿児島県志布志湾までとされている.そのうち静岡県・和歌山県・鹿児島県は唯一度の記録であるため,常時の生息地は徳島県から宮崎県であるとみてよい.したがって,高知県は分布の中心地である.」さらに【個別種の対応】では,『アカメの分布域は,和歌山県から宮崎県とされており・・・』と記述されています.しかし,日本水産資源保護協議会(1996)の「日本の希少な野生水生生物に関する基礎資料(III)-分冊-II」によると,アカメの出現は,鹿児島県(志布志湾),宮崎県(沿岸全域),大分県(臼杵),高知県(土佐湾沿岸全域),徳島県(宍喰・海老ヶ池・牟岐・那賀川河口),大阪府(淀川河口),和歌山県(湯浅湾・白浜・富田川河口・里野),静岡県(浜名湖)で記録されている(荒賀・田名瀬,1987;Iwatsuki et al.1993;鍋島ら,1994),とあります.上記,「日本の希少な野生水生生物に関する基礎資料(III)-分冊-II」では和歌山県での出現は(湯浅湾・白浜・富田川河口・里野)4カ所が掲げられており,あきらかに唯一度の記録ではありません.また鹿児島県では(志布志湾)での確認されていること,種子島・屋久島では黒▲の生息のうわさがあると記述されております.種子島では1999年からの長野たちの調査で種子島での生活のサイクルがあることを確認しました.詳しくは「アカメはこんなお魚です http://www1.ocn.ne.jp/~akame/akame.html」を参照してください.同じく高知県宿毛市も黒ですが複数の釣獲記録により生息を確認しました.また,三重県尾鷲市でも確認されています.このようにアカメの分布域は次々と拡大しながら確認が進みつつあります.

◎IA類(CR)の定量的要件について

●要件A 次のいずれかの形で個体群の減少が見られる場合,

 1.最近10年間もしくは3世代のどちらか長い期間を通じて,80%以上の減少があったと推定される.

 2.今後10年間もしくは3世代のどちらか長い期間を通じて,80%以上の減少があると予測される.

*これらに関しては,県RDBはアカメの世代時間を示していません.また,10年前の推定値,10年後の予測を示していません.

*アカメは一般的に4年で成熟に達するとされていますから,3×4=12年がこの要件を検討する期間であると私たちは考えます.

*高知県RDB作成のための準備期間が終了した1998年およびその12年前におけるアカメの個体数(漁獲統計,釣獲漁を含む)が高知県RDBに示されていません.高知県RDBが出版された2002年とその12年前とした場合も同様です.すなわち,80%以上の減少という根拠が示されていません.また,今後の80%以上の減少についても,根拠となるこれまでの個体数が何一つ示されていません.

*このように,1950年以前と現在の個体数を比較することは要件の基準からはずれますから,「数十分の1〜百分の1」はそもそも判定基準になりません.また,比率は示されていますが,この比率の根拠となる数値が何一つありません.要件Aを満たす個体数のデータが何も示されていないのですから,要件Aで検討すること自体が無理なのです.判定ができないはずなのに,IA類としたことになります.もし,要件Aを基準にアカメをIA類に指定したのなら,その根拠となった異なる時間での個体数を明確に示すべきです.

 次に定量的要件Bの検討に移ります.

●要件B 出現範囲が100平方キロメートル未満もしくは生息地面積が10平方キロメートル未満であると推定されるほか,次のうち2つ以上の兆候が見られる場合.

1. 生息地が過度に分断されているか,ただ1カ所の地点に限定されている.

2. 出現範囲,生息地面積,成熟個体数等に継続的な減少が予測される.

3. 出現範囲,生息地面積,成熟個体数等に極度の減少がみられる.

 *高知県の資料(http://www.pref.kochi.jp/~kouwan/contents/k-image/k-hozen.pdf)によれば,高知県の沿岸の長さは以下の通りです.

   東洋町北端から室戸岬まで ---- 49km,

   室戸岬から足摺岬まで(土佐湾) ---- 446km,

   足摺岬から宿毛市西北端(県境)まで ---- 218km,

   すなわち,総延長713km.

 高知県RDBのp. 176のアカメの分布の地図には,産地を示す丸が5つしかありません.しかも,これらの丸はすべて土佐湾沿岸です.これは,高知県下のアカメの産地に関心を持つ人に誤った印象を与えます.p. 176〜177に示された具体的な産地の名称は浦戸湾,四万十川本流とその支流の竹島川,仁淀川でしかありませんが,ここで明らかなのは,この場合でもアカメの生息地は1ケ所ではないということです.本県におけるアカメの産地が1ケ所しかないのであれば,要件Bの1を満たすことになりますが,明らかにそうではありません. p. 176の地図上の丸の具体的地名は示されていませんが,東端の丸(室戸岬西岸:おそらく奈半利川)と西端の丸(おそらく四万十川)の距離が100km以上であることは誰にでも分かります.室戸岬から四万十川までをおよそ400kmとし,アカメの出現範囲が100平方キロメートルとすれば,アカメは岸から250m以内にしか出現しないことになります.

 長野自身が得た情報を長野のホームページ「アカメの国」で公開しています(http://www1.ocn.ne.jp/~akame/akamezatugaku.html).これでも明らかなように,アカメは室戸岬から宿毛市まで記録されており,その海岸線は664kmになります.この場合,アカメの出現範囲を100平方キロメートルとすれば,アカメは岸から150m以内にしか出現しないことになります.アカメは定置網である大敷網にも入ります.定置網が岸から150mとか250mに設置されることは絶対にありません.そこで,ここで出した150mとか250mという数字は現実にはあり得ないことは誰にでも理解できます.

 不可解なのは,長野が高知県RDBの作成に携った魚類関係者に要請され,長野の資料(「アカメの国」に掲載済み)を提供したにもかかわらず,それがまったく活かされた形跡がないことです.これは,アカメの産地に関する県RDBのp. 176の地図と「アカメの国」の産地の図を比較するだけで明らかです.すなわち,県RDBで示されたアカメの産地は,県RDBの作成に携った魚類関係者が独自で得た資料に基づくと判断されます.もちろん,これらの方々がRDB作成のための準備期間中ないしはそれ以前に得られた独自の資料に基づき,責任をもって判定されるのが筋かもしれません.そうであるなら,長野に資料の提供を要請する必要はまったくありません.長野が「アカメの国」で示した産地は,釣り人が殺到する可能性があるため,具体的な地名を全てに関して示しているわけではありませんが,地名のない産地はアカメを釣った経験が豊富な人なら誰でも納得する場所です.

また,高知県下におけるアカメの生息面積が10平方キロメートル以下であるとは到底考えられません.たとえば,アカメが生息している浦戸湾だけでも面積は7平方キロメートルです(http://www.emecs.or.jp/03cdrom/japanese/wejapan/sketch/88pdf/56.pdf).しかもこれには,アカメが生息する流入河川の感潮域の面積は含まれていません.同様に,アカメが生息している四万十川の感潮域は不破付近までとされています.河口からここまでの距離はおよそ9kmです.国土地理院の地図から国道56号線の渡川大橋までを感潮域としてその面積を求めると,およそ2.7平方キロメートルとなります.この面積には,四万十川と合流する中筋川の感潮域の面積を含みません.アカメはこれらの汽水域以外の場所でも釣獲されています.このように,たったこれだけでも,要件BでアカメをIA類に指定することが不可能なことは明らかです.

 以上のことから,要件B-1,B-2,B-3を検討する必要はまったくありません.

●要件C 個体群の成熟個体数が250未満と推定され,さらに次の・・・・

*県が要件Cに照らし合わせてアカメをIA類に指定したとすれば,その根拠となる数字を示してあるはずですが,これには触れていません.

●要件D 成熟個体数が50未満であると推定される個体群の場合.

*要件Cと同様に,これには触れていませんから,これを判定基準にしたとは考えられません.

●要件E 数量解析により,10年間もしくは3世代のどちらか長い期間における絶滅の可能性が50%以上と予測される場合.

*12年後のことになりますが,要件Aで検討したように,数量解析の元になる資料がない以上,予測は不可能です.したがって,これを根拠にしたIA類の指定はあり得ません. 

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*以上のことから,私たちはアカメが絶滅危惧IA類に該当する要件を満たしていないと判断します.

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★もちろん,私たちはアカメの個体数の推定がきわめて困難であることを十分に理解しています.また,県RDBで指摘されているように,私たちはアカメが日本固有種であることは十分に承知していますし,アカメの生活史の完結にとってコアマモ場が重要であると認識しています.ここでは,釣りを含むアカメの捕獲の可否は別次元のテーマとし,あくまで私たちの検証が的を射ているかどうかについてご意見をいただきたいと考えます.


アカメは高知県絶滅危惧種に該当するのか?

その(2)----絶滅危惧IB類(EN)か?

  長野と町田は,先にIA類について検証しました.次のカテゴリー絶滅危惧IB類(EN)についても同じように検証を試みました.

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 このHPに関心を寄せて下さっている方々のすべてが高知県RDBをお持ちとは考えられないので, RDBのカテゴリーの定義はHP「アカメの国」【 高知県レッドデータブックのアカメのカテゴリーについて検証するための資料】

(http://www1.ocn.ne.jp/~akame/red_data_book.html)に掲載してあります.以下の部分で,私たちの検証結果を*(赤文字)で示します.

◎絶滅危惧IB類 Endangered(EN)はIA類ほどではないが,近い将来における野生での絶滅の危険性が高いものとされています.

*定性的要件については,絶滅危惧I類(IA+NE)とくくられているため,先におこなったIA類の検討と同じです.

 

◎IB類(EN)の定量的要件について

●A 次のいずれかの形で個体群の減少が見られる場合.

1. 最近10年間もしくは3世代のどちらか長い期間を通じて,50%以上の減少

 があったと推定される.

2. 今後10年間もしくは3世代のどちらか長い期間を通じて,50%以上の減少

 があると予測される.

 

*IA類の場合と同様に,1950年以前と現在の個体数を比較することは要件の基準からはずれますから,「数十分の1〜百分の1」はそもそも判定基準になりません.また,比率は示されていますが,この比率の根拠となる数値が何一つありません.要件Aを満たす個体数のデータが何も示されていないのですから,IB類の要件Aで検討することはできません.

 

 次に定量的要件Bの検討に移ります.

●B 出現範囲が5,000平方キロメートル未満もしくは生息地面積が500平方キロメートル未満であると推定されるほか,次のうち2つ以上の兆候が見られる場合.

 1. 生息地が過度に分断されているか,5以下の地点に限定されている.

 2. 出現範囲,生息地面積,成熟個体数等に継続的な減少が予測される.

 3. 出現範囲,生息地面積,成熟個体数等に極度の減少が見られる.

*高知県の資料

 (http://www.pref.kochi.jp/~kouwan/contents/k-image/k-hozen.pdf)

によれば,高知県の沿岸の長さは以下の通りです(IA類ですでに掲載済み).

   東洋町北端から室戸岬まで ---- 49km,

   室戸岬から足摺岬まで(土佐湾) ---- 446km,

   足摺岬から宿毛市西北端(県境)まで ---- 218km,

   すなわち,総延長713km.

 高知県RDBのp. 176のアカメの分布の地図には,産地を示す丸が5つしかありません.しかも,これらの丸はすべて土佐湾沿岸です.これは,高知県下のアカメの産地に関心を持つ人に誤った印象を与えます.長野自身が得た情報を長野のホームページ「アカメの国」で公開しています(http://www1.ocn.ne.jp/~akame/akamezatugaku.html).これでも明らかなように,アカメは室戸岬から宿毛市まで記録されており,その海岸線はおよそ600kmになります.

 室戸岬から宿毛市までをおよそ600kmとし,アカメの出現範囲が5000平方キロメートルとすれば,アカメは岸から約8.4km以内に出現することになります.ただし,室戸岬から宿毛市にかけての海域で,何kmより沖にはアカメがいないという確実な資料はないと思われるので,この条件を検討するのは不可能と考えられます.

 アカメは大敷網などで混獲されることから,少なく見積もっても海岸線から1km以上の沖合にも生息すると判断されます.アカメが生息する海岸線を同じく室戸岬から宿毛市までのおよそ600kmとし, 沿岸からの生息範囲を仮に1kmとすると,その生息域は600平方キロメートルとなり,500平方キロメートルを超えます.アカメは紀伊水道の徳島県側,すなわち,高知県安芸郡東洋町より北の海域でも大敷き網により捕獲されています(http://www.green.pref.tokushima.jp/suisan/kasgn/kas_topic015.html).このことから,高知県下におけるアカメの生息域は600平方キロメートルよりさらに広いことが考えられます.

なお,日本水産資源保護協議会(1996)の「日本の希少な野生水生生物に関する基礎資料(。)-分冊-」によると,本種の高知県での出現は『土佐湾沿岸全域』とされています.しかし,宿毛市で捕獲されているのは事実ですから,日本水産資源保護協会の資料は高知県におけるアカメの出現範囲を過小評価していると考えられます.

 以上のことから,要件B-1,B-2,B-3を検討する必要はまったくありません.

 

●要件C 個体群の成熟個体数が2,500未満であると推定され,さらに次のいずれかの条件が加わる場合.

 1. 5年もしくは2世代のどちらか長い期間に20%以上の継続的な減少が推定される.

 2. 成熟個体数の継続的な減少が観察,もしくは推定・予測され,かつ個体群が構造的に過度の分断を受けるか全ての個体が1つの亜個体群に含まれる状況にある.

*県がIA類の要件Cに照らし合わせてアカメをIA類に指定したとすれば,その根拠となる数字を示してあるはずですが,これには触れていません.そこで,IB類でもIA類と同じように,根拠になる数字がないため,検討できません.

   

●要件D 成熟個体数が250未満であると推定される個体群である場合.

*要件Cと同様に,その根拠となる数字が示されていないため,これを検討できません.

 

●要件E 数量解析により,20年間,もしくは5世代のどちらか長い期間における絶滅の可能性が20%以上と予測される場合.

*20年後のことになりますが,要件Aで検討したように数量解析の元になる資料がない以上,予測は不可能です.したがって,これも検討することができません. 

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*以上のことから,私たちはアカメが絶滅危惧IB類に該当する要件を満たしていないと判断します.


アカメは高知県絶滅危惧種に該当するのか?(06.8.1)

その(3)絶滅危惧II類 Vulnerable (VU)か

 

  長野と町田は,先にI類について検証しました.絶滅危惧II類 (VU) についても同じように検証を試みました.

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 このHPに関心を寄せて下さっている方々のすべてが高知県RDB(以下県RDB)をお持ちとは考えられないので, 県RDBのカテゴリーの定義はHP「アカメの国」【 高知県レッドデータブックのアカメのカテゴリーについて検証するための資料】

(http://www1.ocn.ne.jp/~akame/red_data_book.html)に掲載してあります.以下の部分で,私たちの検証結果を*(赤文字)で示します.

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◎絶滅危惧II類 Vulnerable (VU) は絶滅の危険が増大している種.

 現在の状態をもたらした圧迫要因が引き続き作用する場合,近い将来「絶滅危惧I類」のランクに移行することが確実と考えられるもの.

◎II類 (VU) の定性的要件について

【確実な情報があるもの】

(1)大部分の個体群で個体数が大幅に減少している.

(2)大部分の生息地で生息条件が明らかに悪化しつつある.

(3)大部分の個体群がその再生産能力を上回る捕獲・採取圧にさらされている.

(4)分布域の相当部分に交雑可能な別種が侵入している.

 

*定性的要件について検討します.

(1)に関しては,高知県沿岸全域が生息域であると考えられます.ゆえに,アカメが生息地ごとに独立した個体群を形成しているとは考えられません.

(2) に関して,県RDBは大部分の生息地で生息条件が明らかに悪化していることに触れていません.ただし,県RDBはp.176にある【選定理由】で「・・・減少の最大の要因は水質の汚染と,幼稚魚の保育場となるアマモ場の埋め立てなどによる消失と汚濁である.また,現在最も生息密度が高い四万十川流域での減少は,上記2つの要因に加えて鑑賞魚としての売買を目的とした幼稚魚の乱獲が原因である.」と記述されています.水質の汚染は環境への意識の高まりもあり,ここ十年前後では汚染がそれほど増しているとは考えられません.幼稚魚の保育場となるコアマモ場の埋め立てなどによる破壊は,高知市内の新堀川に蓋をして県道にする工事など現在も公共工事による破壊は進んでいますが,大部分の生息地で生息条件が明らかに悪化しつつあるというデータはなく,この要件には該当しません. 

(3) に関して,(1)の検討で述べたように高知県沿岸でアカメが生息地ごとに独立した個体群を形成しているとは考えられません.その事を前提に「再生産能力を上回る捕獲・採取圧」があるかどうかですが,県RDBは四万十川流域での幼稚魚の乱獲に言及しているのみです.他の地域での幼稚魚の乱獲に関する記述もないことから,この要件に該当するとは考えられません.

(4) に関して,「交雑可能な別種が侵入している」という報告例はなく,県RDBには記述がないため該当しません.

 

◎II類(VU)の定量的要件について

●A 次のいずれかの形で個体群の減少が見られる場合.

 1. 最近10年間もしくは3世代のどちらか長い期間を通じて,20%以上の減少があったと推定される.

2. 今後10年間もしくは3世代のどちらか長い期間を通じて20%以上の減少があると予測される.

 

*定量的要件Aの検討に移ります.

1. ,2.ともにこれまでにみてきたようにアカメが生息地ごとに独立した個体群を形成しているとは考えられません.アカメは高知県沿岸全域に広く棲息しておりこの要件には該当しません.

 

●B 出現範囲が20,000平方キロメートル未満もしくは生息地面積が2,000平方キロメートル未満であると推定され,また次のうち2つ以上の兆候が見られる場合.

 1. 生息地が過度に分断されているか,10以下の地点に限定されている.

 2. 出現範囲,生息地面積,成熟個体数等について,継続的な減少が予測される.

 3. 出現範囲,生息地面積,成熟個体数等に極度の減少が見られる.

 

*定量的要件Bの検討に移ります.

1.いままでみてきたように生息地は分断されていませんので,この要件には該当しません.

2.出現範囲はむしろ拡大しています.生息地面積も出現範囲の拡大とともに広がる傾向にあると思われます.成熟個体数の釣獲も増える傾向にあり,少なくとも減少傾向はないと考えられます.

3.上記のとおりであり,この要件には該当しません.

 

●C 個体群の成熟個体数が10,000未満であると推定され,さらに次のいずれかの条件が加わる場合.

 1. 10年間もしくは3世代のどちらか長い期間内に10%以上の継続的な減少が

   推定される,

 2. 成熟個体数の継続的な減少が観察,もしくは推定・予測され,かつ個体群が構造的に過度の分断を受けるか全ての個体が1つの亜個体群に含まれる状況にある.

 

* 定量的要件Cの検討に移ります.

 成熟個体・未成熟個体とも資源量のデータはありません.具体的に成熟個体10,000未満かあるいはそれ以上かを推測することは不可能であり,個体群についてもこれまで見てきたように,構造的に過度の分断を受けるとは考えられないため, 1および2の要件には該当しません.

 

●D 個体群が極めて小さく,成熟個体数が1,000未満と推定されるか,生息地面積あるいは分布地点が極めて限定されている場合.

 

* 定量的要件Dの検討に移ります.

 これまでの検証のとおりDの要件には該当しません.

 

●E 数量解析により,100年間における絶滅の可能性が10%以上と予測される場合.

 次のいずれかの形で個体群の減少が見られる場合.

1. 最近10年間もしくは3世代のどちらか長い期間を通じて,50%以上の減少 があったと推定される.

2. 今後10年間もしくは3世代のどちらか長い期間を通じて,50%以上の減少があると予測される.

 

* 次に定量的要件Eの検討に移ります.

今後100年間のことになりますが,いままで検証したように,数量解析の元になる資料がない以上,予測は不可能です.

 

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*以上のことから,私たちはアカメが絶滅危惧II類に該当する要件を満たしていないと判断します.


 重大な誤りがありましたので訂正します  2007.2.10)

 町田が検討文書を見直す中(2007.2.9)で重要な誤りに気づきました.それは準絶滅危惧の要件と「情報不足」の要件を取り違えていたことです.この準絶滅危惧というカテゴリーについては長野が担当し検討したうえで町田が確認していたものですが,長野はうっかり一段下の「情報不足」の要件で検討しアカメは準絶滅危惧に該当する種であるとしておりました.

 準絶滅危惧について,あらためて検討し,その結果とこれまで検討をしていなかった「情報不足」についても新たに検討しましたのでその結果を掲載します.


                 アカメは高知県絶滅危惧種に該当するのか?

 長野と町田は,先にI類・II類について検証しました.準絶滅危惧 (NT) についても同じように検証を試みました.

 以下の部分で,私たちの検証結果を*(赤文字)で示します.

その(3)準絶滅危惧 Near Threatened (NT)か? 

【区分及び基本概念】◎準絶滅危惧(NT) 存続基盤が脆弱な種

現時点での絶滅危険度は小さいが,生息条件の変化によっては「絶滅危惧」として上位ランクに移行する要素を有するもの.

 定性的要件

 次に該当する種

  生息状況の推移から見て,種の存続への圧迫が強まっていると判断されるもの.具体的には,分布域の一部において,次のいずれかの傾向が顕著であり,今後さらに進行するおそれがあるもの.

 a:個体数が減少している *(アカメでは不明)

 b:生息条件が悪化している*(一部の分布域のアカメの幼稚魚はこれに該当する:たとえば,新堀川の道路拡幅計画とそれに伴う底質環境の破壊)

 c:過度の捕獲・採取圧による圧迫を受けている*(アカメでは不明)

 d:交雑可能な別種が侵入している*(アカメは該当しない)

 

 *上記のようにアカメはかろうじてbに該当するかとも解釈されますが,県下のコアマモ場は天候による年変動がみられます.また,浦戸湾水系においては新堀川のように藻場の拡大がみられます.さらに江の口川では全滅していたコアマモが再生,点在するようになってきています.総合的にみるとコアマモ場の面積は増えている可能性もありアカメを準絶滅危惧種と指定するには無理がありそうです.


 アカメは高知県情報不足種に該当するのか?

 長野と町田は,先にI類・II類と準絶滅危惧 (NT) について検証しました.情報不足(DD)についても同じように検証を試みました.

以下の部分で,私たちの検証結果を*(赤文字)で示します.

【区分及び基本概念】◎情報不足(DD)

 評価するだけの情報が不足している種

 定性的要件

 環境条件の変化によって,容易に絶滅危惧のカテゴリーに移行しえる属性(具体的には,次のいずれかの要素)を有しているが,生息状況をはじめとして,ランクを判定するに足る情報がえられていない種

 a:どの生息地においても生息密度が低く希少である

 b:生息地が極限されている

 c:生物地理上,孤立した分布特性を有する(分布域がごく限られた固有種等)

 d:生活史の一部または全部で特殊な環境条件を必要としている

 * 定性的要件について検討します.

 a:高知県での棲息についてはこれまで検証してきたように県沿岸全域と考えられます.東洋町については長野の記録では,「釣獲のうわさがある」だけですが,お隣の徳島県宍喰町の定置網で2006年混獲された記録がありますし,宍喰川河口で投網により捕獲された記録もあり東洋町も棲息範囲に含めるべきであると考えます.その生息域での密度は高低がありますが,全体として希少であるといえます.この要件に該当します.

 b:生息地が極限されているかどうかですが,どの範囲で見るかによって違ってきます.高知県だけでみますと,先に検証したように沿岸全域ですので,極限はされていません.仔稚魚・幼魚期の棲息地でみますと生息環境が限定されますので成魚の生息域の沿岸全域よりは,はるかに限定されます.しかし,それでも極限といわなければならないかどうか判断に迷いますが,コアマモ場にたいする県の取り扱いなどをみておりますと危機を感じます.総合的に見てこの要件にかろうじて該当します.

 c:この要件に該当します.

 d:これまでの研究で明らかにされているように,アカメの仔稚魚・幼魚期の主な棲息地は汽水のコアマモ場とされており「特殊な環境条件」を必要としておりこの要件に該当します.

 以上のようにアカメは資源量・繁殖生態など基本的な生態解明さえ進んでいない謎の多い魚です.「生息状況をはじめとして,ランクを判定するには足る情報が得られていない種.」であり,わたしたちはアカメは情報不足に該当する種であると考えます.

 


 枠の中の検討文章については(2006.8.2)に長野が間違って検討した部分です.記録として残しておきます.

アカメは高知県絶滅危惧種に該当するのか?(2006.8.2)

 長野と町田は,先にI類・II類について検証しました.準絶滅危惧 (NT) についても同じように検証を試みました.

 以下の部分で,私たちの検証結果をで示します.

その(3)準絶滅危惧 Near Threatened (NT)か? 【区分及び基本概念】◎準絶滅危惧(NT) 存続基盤が脆弱な種

現時点での絶滅危険度は小さいが,生息条件の変化によっては「絶滅危惧」として上位ランクに移行する要素を有するもの.

 ◎準絶滅危惧(NT) の定性的要件について

環境条件の変化によって、容易に絶滅危惧のカテゴリーに移行し得る属性(具体的には、次のいずれかの要素)を有しているが,生息状況をはじめとして,ランクを判定するには足る情報が得られていない種.

a)どの生息地においても生息密度が低く希少である.

b)生息地が局限されている.

c)生物地理上、孤立した分布特性を有する(分布域がごく限られた固有種等).

d)生活史の一部または全部で特殊な環境条件を必要としている.

 * 定性的要件について検討します.

a)  高知県での棲息についてはこれまで検証してきたように県沿岸全域と考えられます.東洋町については長野の記録では,「釣獲のうわさがある」だけですが,お隣の徳島県宍喰町の定置網で2006年混獲された記録がありますし,宍喰川河口で投網により捕獲された記録もあり東洋町も棲息範囲に含めるべきであると考えます.その生息域での密度は高低がありますが,全体として希少であるといえます.この要件に該当します.

b)  生息地が極限されているかどうかですが,どの範囲で見るかによって違ってきます.高知県だけでみますと,先に検証したように沿岸全域ですので,極限はされていません.仔稚魚・幼魚期の棲息地でみますと生息環境が限定されますので成魚の生息域の沿岸全域よりは,はるかに限定されます.しかし,それでも極限といわなければならないかどうか判断に迷いますが,コアマモ場にたいする県の取り扱いなどをみておりますと危機を感じます.総合的に見てこの要件にも該当します.

c)  生物地理上,孤立した分布特性を有する(分布域がごく限られた固有種等).

この要件に該当します.

d)  生活史の一部または全部で特殊な環境条件を必要としている.

これまでの研究で明らかにされているように,アカメの仔稚魚・幼魚期の棲息地は汽水のコアマモ場と限定されており「特殊な環境条件」を必要としておりこの要件に該当します.

以上のようにアカメは資源量・繁殖生態など基本的な生態解明さえ進んでいない謎の多い魚です.「生息状況をはじめとして,ランクを判定するには足る情報が得られていない種.」であり,わたしたちはアカメは環境省のカテゴリーである準絶滅危惧に該当する種であると考えます.


 

アカメは高知県絶滅危惧種に該当しない!

その(1)----絶滅危惧IA類(CR)か?

 長野と町田(注1)は,アカメが高知県絶滅危惧IA類に指定されていることに疑問を感じ,検証を試みました。私たちの検証に関し,みなさんからご意見を賜りたいと思います。私たちはそれらを参考に,検証を繰り返すつもりです.もちろん,私たちの検証の最終的な結果について,いずれ県の担当部局からご意見をいただく予定にしております.なお,町田は高知県RDBの作成に関与しましたが,哺乳類分科会に所属しており,汽水・淡水魚類の指定には関与していません.

わたしたちの検証の結果を発表(06.7.29)しました.これによりわたしたちはアカメは高知県レッドデータブックでのカテゴリーIA類には該当しないという結果を得ました.

 続けて検討の結果,環境省が発表したアカメのカテゴリーである準絶滅危惧種よりも一段下のランクである情報不足種に該当するという結論を得(07.2.10)ました.

 2006年8月2日に準絶滅危惧に該当する種だと発表していましたが,長野はうっかり一段下の「情報不足」の要件で検討するという過ちを犯しておりました.高知県レッドデータブック アカメのカテゴリーの検証にその経過と再度の検討と,その結果について掲載してあります.

 

(注1)高知大学理学部自然環境科学科教授 町田吉彦

つづく