アカメと日本に棲むその仲間写真上段、標準和名:アカメ 学名:Lates japonicus Katayama and Taki, 1984
(アカメのデータ:左、浦戸湾水系国分川、全長64cm、右、浦戸湾水系、標準体長284.0mm) 写真中段、オーストラリア名:バラマンディ 学名 Lates calcarifer (バラマンディのデータ:オーストラリア、西オーストラリア州のカナナラ。ジョゼフボナパルト湾に注ぎこむオード川で1991年4月21日、小西和人氏釣獲。全長78cm。写真提供、小西英人氏。)
写真下段、標準和名:アカメモドキ 学名 Psammoperca waigiesis (アカメモドキのデータ:2005.10.10、沖縄本島にて釣獲、全長約34.5センチ、体重720グラム。写真提供フィッシング沖縄社) かつてアカメにはLates calcalifer(オーストラリア名はバラマンディ。以下、バラマンディ)という学名が適用されていました。片山正男氏は1977年に、アカメがバラマンディと異なる種であることに気付きました。その後、片山氏と多紀保彦氏により、アカメは新種Lates japonicus Katayama and Takiとして1984年に記載されました。つまり、標準和名でアカメとされていた種に外国産の種の学名を適用していたのが誤りだったので、アカメに新しい学名を与え、別種として区別したということです。アカメの原記載で使用された標本(模式標本)は4個体で、すべて高知市の浦戸湾産でした(模式標本とは、新種が発表された時にその基になる標本のことです。要するに、他種と比較するための物的証拠というべきものです)。
アカメ属(Lates)のほとんどの種はほぼ南北回帰線の間に分布しますが、アカメの分布域だけは北に孤立しているようです。バラマンディは琉球列島(西表島)以南の台湾を含む東南アジアから知られているのですが、アカメは種子島まで棲息していることが1999年からの私たちの調査で分かりました。しかし、アカメとバラマンディの分布の境界がどこにあるのかはまだ謎で、興味が尽きません。2005年10月14日の琉球新報に、沖縄本島でアカメが釣獲されたという記事が掲載されました。「すわ一大事」と調べてみますと、姿かたちも、和名もアカメによく似たアカメモドキ(Psammoperca waigiesis)でした。1995年に、八重山諸島の西表島でダイバーにより撮影されたアカメ属の個体はバラマンディと思われます。西表島のすぐご近所、台湾でのバラマンディの標準名は「尖吻鱸」ですが、「金目鱸・盲槽、扁紅眼鱸」とも呼ばれ、時々釣られています。台湾との距離は約190キロ(東京→静岡)ほどだそうで、西表島にバラマンディがいても何の不思議もなさそうです。
バラマンディとの体型的な違いは、アカメは体高が高い、側線数が多い、胸鰭条数が少ない、臀鰭第二棘が第三棘より長いなどの違いがあります。一番容易な見分け方は、臀鰭棘(でんききょく)の特徴です。アカメは前から二番目の棘がわずかに長いのですが、バラマンディは三番目が一番長いのです。
日本に於けるアカメの分布について見てみましょう。
下記のアカメの分布図は1996年に日本水産資源保護協議会が発刊した「日本の希少な野生水生生物に関する基礎資料(III)-分冊-II」からのものです。この本には各種希少種について書かれたものですが、アカメの担当者は木下 泉博士・岩槻幸雄博士で、アカメの研究者として著名な方々です。それによりますと、本種の出現は、鹿児島県(志布志湾)、宮崎県(沿岸全域)、大分県(臼杵)、高知県(土佐湾沿岸全域)、徳島県(宍喰・海老ヶ池・牟岐・那賀川河口)、大阪府(淀川河口)、和歌山県(湯浅湾・白浜・富田川河口・里野)、静岡県(浜名湖)で記録されている(荒賀・田名瀬、1987;Iwatsuki et al.1993;鍋島ら、1994)。しかし、宮崎・高知・徳島県以外の地域では、全て散発的な出現であること、また、徳島県では1982年以降、出現記録がないことから、現在の生息域は宮崎・高知県に限られるといってよい。その他、屋久島・種子島・高知県宿毛・三重県においても本種に関して何らかの情報はあるが、確認されるにいたっていない。と記述されています。
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●愛媛県におけるアカメの分布については、愛媛県総合科学博物館研究報告,No8, 23-26,(2003) 「宇和海周辺で記録されたアカメ」で報告されております. ●徳島県では徳島県立農林水産総合技術支援センター 徳島水研だより 第57号(2006年3月発行)で海洋資源担当 池脇 義弘氏が「徳島県におけるアカメの謎の回遊」で報告されております。 |
形態
全長一メートルを超すものも頻繁にみることができます。高知県で最大記録として正確に残っているのは、1994年八月十日、四万十川で岸和田市在住の中村信夫氏がルアーで釣った137センチ、30キログラムで現在の日本記録です。この魚体よりも大型のアカメを釣った(捕獲した)という話はありますが、証明されるものが残されていないので確認の方法がありません。
体型はフナを大きくしたような型(鹿児島県種子島南種子町の地方名の1つがオキノフナ)であり、体長にたいして、頭部は大きく、吻はとがっています。口は大きく、上顎後端は眼の後端よりもはるかに後方に位置しています。
(1)仔稚魚;A,後期仔魚 4.7mm SL; B,後期仔魚 5.3mm SL; C,後期仔魚 8.1mm SL; D,稚魚15.5mm SL(木下 泉・藤田真二・高橋勇夫・東 健作,1988.四万十川河口域におけるアカメ仔稚魚の出現.魚類学雑誌34巻4号より)
(1)仔稚魚
(2)幼魚 112mm SL
(3)若魚 280.4mm TL
(4)成魚(♀)
種子島のオキノフナ 920.7mm SL 写真は園田豪さん提供
(5)鱗状突起
(6)臀鰭第3棘
アカメの臀鰭棘は3棘あります。第1、第2棘は判りやすいのですが、第3棘は臀鰭軟条にくっついています。赤丸で囲ったのが(6)第3棘です。
アカメはこの3棘あるうち第2棘が最も長いのですが近縁種のバラマンディは第3棘が最も長いという特徴を持っています。
アカメのアカメたる所以である眼は紅く見え、ルビーレッドとも表現されます。しかし、眼球そのものが紅く着色しているのではなく、血液の色が光で反射され紅く見えるのです。食用にするため捕獲して血抜きをして失血すると、もはや紅くは見えず黄色がかった半透明に見えるようになったりします。
(7)アカメの赤目
(8)アカメの金目
(9)アカメの黒目
側線は尾鰭後端まで達し、(5)鱗状突起が腹鰭腋部に対であり、これらはアカメ科の特徴です。
体色を文章で表現するのは大変むずかしいのですが、やってみます。先ず、三十センチまでの幼魚の体色は、リラックスしているときは成魚と同じ灰銀色に白っぽい横縞があり、頭部には同じく白っぽい色の縦縞があります。摂餌の時や警戒して興奮すると一気に色が濃く変わり、暗褐色となり、白っぽい部分がより白くうきあがります。さらに、ネットなどで捕まえられて興奮が極致に達すると、さらに濃くなり、黒に近い暗褐色となり白っぽい部分は黄金色になります。五十センチを越えるようになると幼魚期の黒に近い褐色と黄金色は見られなくなり、リラックスしているときは背側はすこし濃い灰銀白色で腹側はより白味が増します。興奮すると体色が薄い暗褐色となり、幼魚ほどは鮮明ではありませんが白っぽい横縞が現れ、頭部の白っぽい縦縞ははっきり現れます。大型になるにつれ興奮時でも全体的に濃くなりますが、幼魚斑の白っぽい縞もようは現れなくなってきます。しかし、個体によってはわずかに現れることもあります。海の中のアカメは銀色に輝いており、それはそれは美しいそうです。
二歳のアカメ、水槽に入れて一ヶ月と少したったころだが人影をみて体色が濃くなったところ。
産卵は海で行われていると考えられていますが、場所の特定はできていません。産卵の時期は六月〜八月だといわれています。成長については、ガイドが現在調査中です。飼育下での調査はアカメの研究者である田代氏、岩槻氏がなされています。それによりますと採集した全長平均222mm、147gのものを、自然水温下で約二年飼育すると、全長平均500mm、1825gまで成長したそうです。(田代・岩槻1995)
(1)
(1)は木下 泉・藤田真二・高橋勇夫・東 健作,「1988.四万十川河口域におけるアカメ仔稚魚の出現」.魚類学雑誌34巻4号から引用しました。仔稚魚がコアマモに擬態して身を潜める様子です。
アカメは仔稚魚・幼魚期をコアマモ場に依存して過ごすことが明らかにされています。かれらにとってコアマモ場は大変重要な保育場であるわけです。コアマモは河口の汽水域に主に繁茂する海草(うみくさ)ですが、かぎられた条件の低質などの環境下にしか生えずその生息域はたいへん限定されています。こうした河口部は人間生活の影響を最も大きく受けるためコアマモ場は減少の一途をたどっています。2006年の現在、高知市の新堀川で再生しているコアマモ場が道路拡張の公共工事で破壊されようとしています。準絶滅危惧種であるコアマモはアカメだけでなくスズキ・チヌ・ヘダイなどたくさんの稚魚たちのゆりかごでもあります。都市のど真ん中に広がる奇跡のような豊かな自然を守りたいものです。
アカメの成魚は一年を通じて海にいますが、河口には夏の時期に多く現れます。もちろん例外もあります。成魚の主な生息域は海です。
仔稚魚・幼魚期は河口の汽水域で主に生活しています。土佐沿岸の小さな河川の流れ込んだサーフでアカメが良く釣れるためにアカメはこんな小さな川でも汽水に棲んでいるという人もいますが、けっしてそうではありません。成魚は高知県沿岸に広く棲んでおります。アカメのヒット率が最も良いのが雨の後の川の増水時です。川が増水すると沢山の淡水魚が海に流入します。コイ・フナ・アユ・ウグイ・オイカワ・エビなど。こうしたときアカメは近くの住処から河口にやってきて、食事をするためエサの流れ込んだテーブルにつくのです。
地方名
魚に親しんできたわたしたち日本人は、魚の成長にあわせて呼び名をつけて区別したり、交流の少なかった昔には地方々によって魚の呼び名が違っていたり、驚くほど多くの地方名をもっていました。テレビなどの影響で昔からの地方名が段々すたれていくのはとてもさみしいものを感じます。標準和名のアカメもいまでは一般的に使われていますが、アカメがマスコミに取り上げられるまでは、わたし自身、大型はミノウオ・ミノイオと呼んでいたのですが、いつのまにかアカメに統一されるようになっています。この頃、地方名を大事にしたいと思うようになりました。
みなさん、地方名をつかいませう。 高知県:アカメ(高知県全般、ただし、中村市・中芸地区では一貫目以下のものをいう)ヌベ・ニベ・タヌキ(安芸市)シンチュウメ(安芸市下山地区)ミノウオ(中村市・浦ノ内・浦戸湾・田野・奈半利)ヨロイウオ(浦ノ内)ミノイオ(片島・下田・田野)ミネイオ(下ノ加江)
宮崎県:マルカ(全域で呼ばれるが全長50センチ以上)ハゴ(中部以南、50センチ以下のもの)ヨダキボ(門川)
徳島県:メヒカリ、ミノウスズキ
鹿児島県:カワヌベ(志布志湾高山)オキノコイ(屋久島、種子島:郡川)オキノフナ(種子島南部)イサゴ(種子島南部:茎永)ヌベ(種子島西部:島間)バッタン(種子島:郡川)
大分県:オキスズキ(蒲江)
主な生息地である、宮崎県と高知県で共通しているのは、大型魚と小型魚を区別して別名でよんでいるところです。それも、その境が50〜60センチです。これは幼魚〜若魚までのアカメと50〜60センチ以上のアカメは体型・体色が極端に違うところから区別されるようになったからだとガイドは考えます。
幼魚斑と呼ばれる縞模様は約50センチを境にそれ以上大きくなると現れることが少なくなりますし、暗褐色と黄金色もう少し早く消えます。幼魚と成魚を並べると、まるで違う種類の魚と思ってしまいます。
わたしの地方はまた違う名前で呼ばれているという情報がありましたら是非教えて下さい。また、同名異種(例、アカメ=チカメキントキなど)の魚も教えて下さい。BBSに書き込んでいただけるとありがたいです。宜しくお願いします。地方名で参考にさせて頂いた資料:「高知の魚名集」岡林正十郎(1986)自費出版、「アカメ」木下泉 JGFAイヤーブック`94。高知県:シンチュウメは土佐レッドアイの内川昭二さんから教えて頂きました。種子島の地方名は種子島南種子町在住の園田豪さんが調査してくださいました。ありがとうございました。
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