第二回種子島調査(2000.10.27〜31)

 また来たぜよ種子島

 二回目の調査行は昨年と比べると一ヶ月あまり後にずれています。今回は小西さんは種子島とは逆に北海道に取材で種子島は無理だということでした。わたしは妻と2人で種子島を訪ねました。妻の勤務の関係で彼女の休みをまとめてとるため、時期がずれたのです。

 妻とは22年前に新婚旅行で九州を軽四で巡りました。大分・宮崎・熊本・長崎と旅をしたのですが、鹿児島県のそれも種子島は妻は初めてです。いや、結婚以来2人で2日以上旅をするのは初めてです。

 子どもが産まれ、3人の子どもを育て、仕事をし、暮らしに追われるとあっという間に年月は過ぎていきます。

 わたしのほうはアカメだ、調査だ、なんだ、かんだと、日本国中あっちこっちへ行きました、文句も言わず認めてくれた妻に対して口にも態度にも出しませんでしたが、日頃から感謝していました。今回は妻にこじゃんとサービスしようと誓っての旅です。ロッドやらルアーやらたくさん積んでいたのに、行き先が種子島だったのに、ただの一度も釣りをせんかったがぜよ。

 行きのコースは愛媛からしまなみ海道をわたって、広島→山口→福岡→熊本→鹿児島、船で種子島という車での旅でした。

 夜勤(準夜)が終わった妻を職場に迎えにいって安芸を出発したのが27日午前1時50分、阿蘇のススキやら道草を食いながら種子島の西之表市の港についたのが夜10時過ぎでした。

 山並みハイウエーも阿蘇もすっかり秋の景色です。紅葉が真っ盛りであり、広大な阿蘇のススキの原野が見事でした。

 ふだんから緻密な計画などとは無縁のいきあたりばったりの生活をしています。実際、曜日などまるで関係ない暮らしのため、日曜日に銀行にいって、あれ、どうしてきょうはシャッターが降りているのだろうと思ったりすることがあります。

 夕方、鹿児島港に着いてフェリー乗り場を探してうろうろ、やっと乗り場に到着したと思ったら何とフェリーがドッグにはいっているので欠航だと立て看板が出ているではないですか。もうこの日にはフェリーはないらしいのです。2人で途方にくれました。

 何とかならないかとあっちこっちへ問いあわせると貨物船があるといいます。どうやら種子島への船便はこの日はこれだっけのようなのです。車なら空きさえあれば乗せてくれて、運転手だけなら乗れるというのです。旅客船ではないので、あくまで運転手1人だっけだといいます。しかたない、妻を港に残して私と車だけ種子島に渡ることにしました(ウソ)。

 こうなればしかたない、妻には数時間だけ荷物になってもらおう。人間はすうじかんだけやめてもらって、種子島の調査の道具の一つになってもらうことにしました。人間ではなくなったので船上を出歩くわけにはいきません。車の後部シートで横になって何かをかぶって「数時間息を止めてくれ」と頼みましたが、まあ、息だけはさせてくれと断られました。

 車はそれなりに余裕はあったのでそれほど窮屈でたまらないということはなかったのですが、天気が悪く雨が降っていました。波が心配でした。その心配は的中、外洋にでるとかなり波が高くて揺れるのです。船室のまくらが滑るのです。わたしは船で酔うということはなかったのですが、妻は船酔いの達人です。

 どれほどの達人かといいますと、あるとき、ある内湾でタイがよく釣れていました。夏休み次女と妻を釣りに連れて行くことになりました。私が船長で、三人がボートで出航、内湾なので波はほとんどありません。出発してから、10分もしないうち、妻が「おとうさん、わたし帰る」と言い始め船縁から足を乗り出そうとするのです。顔色が悪く、断固とした口振りです。酔い止めも飲んだのに尋常ではない様子であり、水の上を歩いてでも帰りそうな勢いでしたので、急いで引っ返しました。こんなことがあったので、うんと心配したのです。

 何度か安否を確かめに荷室へいって荷物の確認をしました。荷物は息をしていました。緊張しているせいか、横になっていることが幸いしたのか、あれほど船酔いになりやすかったのに無事でした。

 雨の西之表港で、松山さんが待ってくれていました。一年ぶりの再会です。その晩は松山さんのお宅に泊めてもらいました。

 今回は、テントでキャンプ暮らしをしようと思っていました。車に積み込んだキャンプ用具はテント・テーブル・イス2・寝袋3・プリムスコンロ・ランタン・白灯油・ナベ・マグカップ・給水器など。しかし、初日から無情の雨で翌日も降ったり止んだり。翌日は宿をどうしようかと、園田さんに相談すると姉さんが嫁いで経営しているビジネスホテルを紹介してくれました。とても良くして頂き食事がたいへん美味しかったし、宿泊費も安かったので妻共々気に入って滞在中はずっとここでお世話になることにしました。

ビジネスホテルゆり  南種子町中之上2485-1  電話 09972-6-0029  ファクス 09972-6-1521

 です。

  今回は干潮時はネット曳き、その他の時間は聞き取り調査と妻のために名所巡りと時間を使いました。

 上左から

●ロケット発射場

●種子島(鉄砲)

●案内してくださった松山さんと

●熊野浦の海岸

●門倉岬(ポルトガル船漂着の地)の記念碑

 翌日から種子島のお勧め所を松山さんや園田さんに聞きながらめぐりました。そして干潮時にはオキノフナの幼魚を求めてネット引きです。釣りは一切しませんでしたのでオキノフナに関わるのは幼魚調査と聞き取り調査でした。

 南国種子島とはいえもう晩秋です。ネット曳きの出で立ちははわたしはウエットスーツ、園田さん兄弟はチェストハイウエーダーに合羽という姿でした。雨の日でもネット曳きは最重要課題でしたので当然やりました。雨が降ろうが降るまいが濡れるのは同じです。

 すっかり秋の気配が濃くなった大浦川で2年ぶりのオキノフナ調査です。いきものの多い川に網を入れるのは実に楽しく面白いものです。子どもの頃の生き物にあふれていた川を思い出します。

 高知の川も何とかあんな時代の川に戻したいものです。

 どうやらわたしの執念としつこさに仲間達も気づいてきたようでした。もうここは?という最初のポイントから最上流部のポイントまできっちり曳き廻るのです。申し訳ない気持ちもありました、それでも最後までしっかり付き合ってくれました。種子島を去ってからのメールの交換で「ほんとに楽しい1週間でした」と言ってくださりほっとしました。

 今回も、もうダメかなという考えが頭の中をよぎりだしたころ、入りました。オキノフナの幼魚です。上流部でもっとも良さそうなポイントでした。一同の歓声があがりました。大の男が4人もかかって何日もネットを曳いて、今回もやっと一匹でした。しかし、大変貴重な一匹です。やはり確実にいたのです。昨年に続いて連続して当歳魚を採集できました。くどいようですが、一年に1匹採集が連続二年続きました。種子島でこの二年間はそれほど大きな天候の変化はなさそうです。天変地異はおこってはおりません。そうした、いつもと変わらない年でこれだけネットを曳きまくって一年に1匹です。生き物の多い、少ないを判断するのは、よほど慎重にならないといけません。わたしは高知では何カ所もの川の汽水域で何年もネットを曳きました。同じような環境下(保育所)で調査を続けてきました。台風が何度も襲来して丁度アカメの稚魚たちが保育所に入った頃、大増水を繰り返し受けたとしもありました。それでも稚・幼魚の密度は比べようがないほど高知では数が違います。年変動を考慮しても、種子島のオキノフナは実際に少ないということをこの事を通じて実感したのです。

今年もいてくれた!

  

 下記の表はこの時に採集したアカメの幼魚の計測表です。とても小さいサイズなのでわたしでは計測できないため、京都大学の学生さんに2001年6月21日に計測して頂きました。この場であらためてお礼を申し上げます。ありがとうございました。(このデータは正確なものですので、利用されたい方はどなたでもご利用下さい。このデータの使用についての承諾を取る必要はありません)なお計測時にはこの標本は無水エタノールで保存をしていたものです。

備考

種名

アカメ(Lates japonicus)

採取年月日

2000.10.29

採取場所

種子島南種子町大浦川

採集者

長野博光 長野裕子

松山政敬 園田豪 園田毅

保存

京都大学博物館(01.6.21収蔵)

アルコール固定標本

標本 NO. FAKU 79931

Measurements(計測値)

(長さは全てmm)

1. Total length(全長)

64.7

2. Standard length (標準体長)

52.4

3. Head length(頭長)

20.4

4. Snout length(吻長)

5.3

5. Upper jaw length(上顎長)

7.4

6. Eye diameter(眼径)

4.4

7. Interorbital width (両眼間隔)

3.1

8. Postorbital length of head (眼後長)

10.6

9. Predorsal length(背鰭前長)

24.8

10. Body depth(体高)

18.6

11. Body width(体幅)

12. Caudal peduncle length(尾柄長)

10.0

13. Caudal peduncle depth(尾柄高)

7.1

14. 3rd dorsal spine(背鰭第3棘長)

10.8

15. 4th dorsal spine

8.7

16. 5th dorsal.spine

5.5

17. 6th dorsal spine

4.7

18. 7th dorsal spine

2.7

19. Last dorsal spine

3.0

20. Longest dorsal ray(背鰭最長軟条長)

7.7

5th soft-ray(第5軟条)

21. Pectoral fin length(胸鰭長)

8.8

22. Pelvic fin length(腹鰭長)

10.5

23. Caudal fin length(尾鰭長)

11.7

24. 2nd anal spine(臀鰭第2棘長)

5.1

25. 3rd anal spine(臀鰭第3棘長)

4.8

26. Longest anal ray(臀鰭最長軟条長)

6.6

3rd soft-ray(第3軟条)

Meristic Characters(計数形質)

1. Dorsal fin (背鰭)

VII-I,11

2. Pectoral fin(胸鰭)

15

3. Pelvic fin(腹鰭)

I,5

4. Anal fin(臀鰭)

III, 8

5. LLP(側線有孔鱗数)

59

6. TRa(側線上方横列鱗数)

8 1/2

7. TRb(側線下方横列鱗数)

12 1/2

8. GR(鰓耙数)

3+1+7(顕著なもの)

4+1+13(全て計測)


  

  さらば種子島

 

(写真左上から)●西之表港から離岸するフェリーを見送ってくださる松山さん

●フェリー甲板で種子島を後ろに。種子島はほんとうに平らな島ですね。

●噴煙をあげる桜島 鹿児島市の市内を車で走るともの凄い火山灰がたちこめていてビックリしました。街の人達は慣れてはいるでしょうがこれではたいへんだなあと思ったことです。

 今回は無事予定を果たすことが出来ました。聞き取りも幼魚採集もできました。妻と観光もしました。

 調査隊の仲間たち、ビジネスホテル「ゆり」さん、聞き取り調査にご協力頂いたみなさん、種子島 ありがとうございました。

 


第三回種子島調査へつづく

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